私が料理の道を目指し修行を始めた時、食は五感を通して味わうもの、という考えで提供されておりました。それは提供される料理に留まらず、器や皆敷や室礼にも気を配り、全体を通して客人をおもてなしする、とされております。その精神は今日の料理人にも脈々と受け継がれ、追求され続けております。一方で、食材の下処理の方法などを見ておりますと、確かに色の発色は鮮やかになりますが、食材の持つ栄養や薬効の多くが廃棄されるといった状況を目の当たりにしてまいりました。

私はこの食材がもつ栄養や薬効を極力生かした料理を、日本が受け継いできた懐石料理というおもてなしの精神を通して提供したいと思い、「薬効懐石」と名付けることと致しました。この薬効懐石料理を通してお客様に料理を美味しく召し上がって頂くと同時に、お客様の身体の調子が少しでも整いながらお帰り頂くことを、私の「おもてなし」と考えております。

昨今の書物を拝読しておりますと、懐石料理と会席料理の違いを解説しているものをよく見かけます。それらの解説に異論を呈するつもりは全くないのですが、元々の懐石料理は「主人が心を尽くして客人をもてなす料理」というものですので、私の店でもその心に沿ってご提供していくつもりでございます。

料理には「始末する」という、最後まで使い切るという考え方があります。アラ炊きや出汁をとったあとに残る昆布や鰹節などで作る塩昆布やおかかなどが有名ですが、食べ物が貴重な日本においては、極力捨てない、極力使い切る、ということが当たり前でした。今でいう食品ロスを減らす取り組みでもあります。

その意味で当店ではご飯の「おこげ」は極力作らない方針です。おこげは大変美味しいのですが、実際のところその多くは残れば廃棄される運命にあります。おこげを楽しみにされているお客様には大変申し訳ないのですが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

亭主略歴

亭 主  伊藤 健一
出 身  一橋大学大学院経済学研究科
       応用経済学 修士課程
語 学  日本語 英語 
       片言のフランス語
修行歴  天ぷら圓堂 比良山荘 
       丸弥太 浅見水産他
職 歴  エネルギー商社
     カフェバリスタ
     デザイン会社 等